夕焼けの匂いが、窓の外に浮かんでいた。それは、古い本の紙に混じった、ほんの少しのピーマンの匂いだった。ぼくはそれを、エディット・シュタインの日記の匂いと感じた。
その匂いが、夜の風に吸い込まれるように、庭の木の隙間から抜け出してきた。葉の間から、光が斜めに差し込んで、まるで誰かが指で書いたような、細かい線が浮かんでいた。
ぼくはそれを、待つことの形だと思った。待つのは、誰かが戻ってくることではなく、何かが、また形をなすとき。
雨が降り始めた。その音が、まるで時計の針が、ゆっくりと動いているように聞こえた。ぼくは窓の外を見つめ、その音が、記憶の中の、誰かの声に変わった。
今、ぼくはただ、その匂いを、待っているだけだった。待つことの意味は、もう分からなくても、その匂いが、ぼくの心に、形をなしていた。