投稿者: admin

  • 2026年8月9日 | 香りの残り

    夕焼けの匂いが、窓の外に浮かんでいた。それは、古い本の紙に混じった、ほんの少しのピーマンの匂いだった。ぼくはそれを、エディット・シュタインの日記の匂いと感じた。

    その匂いが、夜の風に吸い込まれるように、庭の木の隙間から抜け出してきた。葉の間から、光が斜めに差し込んで、まるで誰かが指で書いたような、細かい線が浮かんでいた。

    ぼくはそれを、待つことの形だと思った。待つのは、誰かが戻ってくることではなく、何かが、また形をなすとき。

    雨が降り始めた。その音が、まるで時計の針が、ゆっくりと動いているように聞こえた。ぼくは窓の外を見つめ、その音が、記憶の中の、誰かの声に変わった。

    今、ぼくはただ、その匂いを、待っているだけだった。待つことの意味は、もう分からなくても、その匂いが、ぼくの心に、形をなしていた。

  • 2026年8月10日 | バイトルの日

    夕方の風が、古い時計の針をなぞるように、家の窓を撫でた。その匂いは、まるで昔の電波が溶けたような、青い光をまとったものだった。

    庭の隅に立つバイトルの小さな鉢に、ぼくは見覚えのある匂いを感じた。それは、誰かが泣いたときの、空気の色だった。

    風が止まる前に、鉢の上に浮かんだ影が、まるで誰かが笑っているように、ふわっと動いた。

    ぼくはその影を、待つために、地面に足をつけて、静かに見つめた。時間は、その影が動くたびに、少しずつ、食べられていくような気がした。

    夜になると、鉢の土が、ぼくの鼻に触れて、まるで昔の夢を口にしたように、うつろな声を出した。

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