朝、海風が家に差し込むと、その匂いはまるで古い紙に書いてあるような、ぬくもりを帯びていた。ぼくはそれを、福島の誰かの手書きの便りだと感じた。
その匂いが散歩道を伝い、石畳の隙間をくぐり抜けて、ある古い屋根の下で止まった。そこには、風が波をたたいて、まるで昔の鐘を鳴らしているように聞こえた。
ぼくはその音に、まるで誰かの記憶が浮かび上がるように、肩をすくめていた。その記憶は、海に沈んだ小さな船の形をしていて、風に揺れていた。
夕方、庭の花が赤く光ったとき、その匂いは、まるでぼくの胸にふんわりと、かすかに寄り添っていた。ぼくは、それを、福島の誰かが、今も待っている、と感じた。