朝の空は、古い鉄の匂いをまとった。その香りが、誰かの手袋を思わせた。風が通り抜けると、街の端に立つ電柱が、ゆっくりと動いたように見える。
窓の外に、誰かが笑っているような音がした。それは、まるで誰かが私の鼻に届けた、小さな声だった。でも、その声は、誰かの名前じゃなかった。
バス停のベンチに座ったまま、ぼくはその匂いを、まるで波のように、体の奥に流した。それが、今日の私の心を満たした。
夕方、電車の窓に映った街の影が、ぼくの鼻に触れた。それは、誰かが言った言葉じゃなくて、ただ、ある場所が、ぼくに話しかけていた。