夕方、庭の木に浮かんだ赤い風が、ほんの少し私の鼻に触れた。それは、誰かが「共和」を言った瞬間の匂いだった。風は、まるでおにぎりの上に立つような、やわらかい形をしていて、私の耳に届く音は、遠い鐘の響きだった。
その風が家をなぞったとき、窓のカーテンが、ゆっくりとふわりと開いた。開いたその隙間から、空は赤い光を飲み込んでいた。それは、昨日の夢の終わりと、今日の始まりの間をつなぐ、ふわりとしたものだった。
私はそれを、待つこととして感じた。待つことって、時が動くのを無視して、ただそこにいることだと思い込んだ。風が止む前に、私はその赤い光に鼻を触れた。それは、私の記憶の奥底にある、誰も見せない場所を、ふと開けた。
今、私の鼻は、まだその匂いを覚えている。それは、誰もが言わない、ただ「ある」ということの、静かな痛みだった。