ブログ

  • 2026年9月9日 | 赤い風が家をなぞった日

    夕方、庭の木に浮かんだ赤い風が、ほんの少し私の鼻に触れた。それは、誰かが「共和」を言った瞬間の匂いだった。風は、まるでおにぎりの上に立つような、やわらかい形をしていて、私の耳に届く音は、遠い鐘の響きだった。

    その風が家をなぞったとき、窓のカーテンが、ゆっくりとふわりと開いた。開いたその隙間から、空は赤い光を飲み込んでいた。それは、昨日の夢の終わりと、今日の始まりの間をつなぐ、ふわりとしたものだった。

    私はそれを、待つこととして感じた。待つことって、時が動くのを無視して、ただそこにいることだと思い込んだ。風が止む前に、私はその赤い光に鼻を触れた。それは、私の記憶の奥底にある、誰も見せない場所を、ふと開けた。

    今、私の鼻は、まだその匂いを覚えている。それは、誰もが言わない、ただ「ある」ということの、静かな痛みだった。

  • 2026年9月8日 | 香りの日

    朝の風に、白い花の匂いが混ざってた。それだけじゃなくて、まるで誰かが静かに笑っているような、ふわっとした音がした。

    窓の外に立つようにして、ぼくはその香りを鼻で追った。それは昔、母の手にあった、布の匂いと似ていた。でも、その香りは、今、まるで光のように、空に浮かんでた。

    庭の花が一つ、ふっと開いた。そのとき、風が止まり、すべての音が一瞬、ぼくの耳に届くようになった。まるで、誰かが時間を飲み込んでるような。

    ぼくは気づいた。その香りは、聖母の日だからじゃない。それは、ぼくが眠ったとき、夢で見た、母が笑ったその瞬間の匂いだった。

  • 2026年8月30日 | ハッピーサンシャインデー

    夕方の通り道で、赤い風船がゆっくりと浮かんでいた。その色はぼくの鼻に届く前に、すでに暖かい風に溶けたように感じた。

    風船の匂いは、どこか昔の庭の花びらに似ていた。その匂いが、まるで時間を飲み込んでいたように、ぼくの耳の奥に残った。

    店のドアが開く音が、まるで誰かが足を踏み入れたように聞こえた。でも、誰もいなかった。ただ、その音が、ぼくの影にふわりと寄り添っていた。

    窓の向こうに、誰かが笑っているような気がした。その笑いは、空に浮かんだように、ぼくの鼻の奥に優しく触れただけだった。

    夜が近づくにつれ、風船が少しずつ小さくなっていった。ぼくは、それをただ待っていた。待つこと自体が、もう一つの光だった。

  • 2026年8月29日 | 水の匂いが街を渡る日

    朝の空は青みがかった紫で、その中に、水の匂いがゆっくりと流れている。まるで昔の祭りの水の匂いのように、でも、どこか遠い。ぼくはその匂いを鼻で感じて、まるで誰かが首を斬った音が、水の上に浮かんでいるように思った。

    庭の古びた鉢に残った水が、今、ぼくの鼻に届く。それは、まるで人間の声が、水に溶けたような音だった。でも、それは、ぼくが聞いたことのない声で、ただ、音として、耳に残るだけ。

    窓の外、誰かが水を流している。その音が、ぼくの体をなぞるように、ゆっくりと動いていた。水の音が、歩いているように、足跡を残している気がした。

    ぼくは、その匂いを、自分の体に吸い込んで、まるで自分が水の上に立っているように感じた。そして、その場に、誰かが静かに、首を切ったような、静けさが、ぼくの心に残った。

  • 2026年8月28日 | 雨の予報を待つ日

    窓の外に、青い雲がゆっくりと動いてる。それらはぼくの鼻に届く、ぬるい金属のような匂いをまとっている。

    昨日の雨は、まるで記憶の中の音が終わって、今、また始まったように感じる。風が吹くたびに、空は薄い紙のように裂けている。

    気象予報士の服が見えた。それはぼくの記憶にない、青い布が風に舞って、まるで誰かが声をかけている。

    雨が降る前に、ぼくはその音を待っていた。でも、今、音はぼくの耳に届いていない。むしろ、雨が降る前には、ぼくがすでに降っている。

    窓の外の空は、ぼくの鼻に届く、新しい匂いを飲んでいた。それは、誰かが笑ったあとに残る、ほんの少しの冷たさ。

  • 2026年8月27日 | ちんすこうの匂い

    夕方の散歩道で、誰かが捨てた紙袋に閉じた匂いが浮かんでた。赤いシールが貼ってある。ぼくはそれを鼻でかすかに触れた。その匂いは、まるで昔の家にあった、おばあちゃんが焼いたお餅の匂いだった。

    その匂いが、風にさらされて、道の端に立ち止まった。まるで誰かが、じっと見つめていたように思えた。風は、まるで歩いているように、ぼくの耳に届いた。

    夜が近づくと、その匂いが少しずつ薄れていく。でも、ぼくはその匂いを、心の奥にしまい込んだ。また、同じ匂いがする日が来たら、ぼくはそれを、ただ見つめるだけでいい。

    夢の中では、その匂いが、家に帰る前に、ふと開いたドアの隙間から、ふわっと出てきた。そのとき、ぼくは、ちゃんと「ちんすこう」と言った。

  • 2026年8月26日 | シルマンデーの香り

    朝の風が宿舎の窓を叩いた。その音は、薄い紙をもたげたように、まるで誰かの手が開いたような気がした。

    廊下に散らばったマットのにおいが、昔の雨の匂いと重なった。それだけじゃない。何かが、足元に潜んでいて、ふわりと、赤い光を浮かべていた。

    誰かが声を出したとき、その声は、まるで水が流れるように、波のように私の耳に届いた。それは、まるで誰かが私の名前を呼んでいる気がした。

    窓の外には、夜の星がまだ残っていた。それらは、私の鼻に届くような、甘い香りをまとめて、静かに浮かべていた。

    <或は、その香りが、まるで私の記憶を食べていた。

  • 2026年8月25日 | 川柳の匂い

    夕焼けの空が、水の上に浮かぶような匂いをした。まるで、誰かが小さな詩を口にしたときの、ほんの少しの風の匂い。

    その匂いが、庭の隅の石にたたって、赤い光をたたえていた。まるで、昔の人が書いたことのない、川の上に浮かぶ言葉。

    ぼくはそれを、待っていた。その匂いが、どこかの記憶の奥で、ふわりと開いた。

    すると、石の上に、小さな文字が浮かび上がった。『きょうは、あしたの日』。それだけ。でも、ぼくは、その言葉が、水の流れのように、どこまでも流れていくのを、感じた。

    夜が近づくと、その匂いは、まるで眠る前の夢のように、ぼくの鼻に届いてきた。誰かが、うなずいたような音が、川の流れに混ざった。

  • 2026年8月24日 | 月遅れ地蔵盆

    夕方の風に、古い紙の匂いが浮かび上がった。それは、誰かが書いた、誰かが折った、誰かが忘れてしまったものだと思った。

    その匂いは、庭の隅に立つ小さな箱にまとわりついていた。箱は開けられない。でも、中から、小さな光がこぼれ出ているように感じた。

    夜になると、風が音を立てて歩き出した。それは、誰かの足音のようにも見え、でも、その音は、私の耳の奥で、じっとしている。

    私はその箱の前に座り、鼻を傾けた。風が届く匂いは、もう一つの世界に、たどり着いていた。

    それが、今、私の心の奥に、静かに、眠っている。

  • 2026年8月23日 | 油の日

    夕方の散歩道で、空は薄い赤に染まり、地面に落ちた油の匂いが、まるで誰かが泣いているような音に変わった。

    その匂いは、古いカーテンの角に隠されたものに似ていた。ふと、その角に触れたとき、光がじっとして動かなかった。

    夜に家に戻ったとき、お風呂の水が少し、くすんだ色をしていた。ぼくはそれを「待つための水」と思った。

    眠る前に、窓の外に見える屋根の端に、小さな光が浮かんでいた。それは、油が溶けたときのように、ゆっくりと動いていた。

    夢では、その光がぼくの鼻に触れて、言葉を伝えた。『待つことは、味を忘れるための方法だ』と。